2005.07.28 Thursday
宮廷女官チャングムの誓いをみて
宮廷女官チャングムの誓い DVD-BOX 1
はじめは朝鮮の歴史を知りたいと思ったのがきっかけでしたが、物語が進むにつれてチャングムの逞しい生き方がまるで、自分の生き方を見ているようで、無視出来なくなりました。
元軍官(国家の高級官僚・貴族階級)の父と宮廷女官(正九品女官・貴族階級)の母に生まれたチャングムは、最貧民階層の村で幸せに暮らしていました。
両親はそれぞれ別々に国家や大きな勢力の陰謀に巻き込まれ、ひっそりと身を隠して幼いチャングムを育てていたのです。
貧しい暮らしにもかかわらず、チャングムは幸せな日々を過ごしていました。
そんなチャングムに突然の悲劇が襲い掛かります。
先王の母の処刑に関係したという事で父が捉えられ、母はチェ一族の刺客に矢を射られチャングムの目の前で死んでいきます。
チェ一族の陰謀に巻き込まれた元宮廷女官の母親の遺言である、水刺間最高尚宮(宮廷厨房担当女官長)になって、代々受け継がれる秘伝書に自分の無念を書いて欲しいという遺言を手紙にしてチャングムに託したのでした。
母の遺言を守る事はチャングムにとっては母の名誉回復と同時に仇を討つことだったのです。
母親の遺言に従い宮廷に入り、水刺間最高尚宮を目指し、母をおとしいれたチェ一族に翻弄されながらも逞しく生きるチャングム。
また師と仰いだハン水刺間最高尚宮が実は母親の親友だったことを知り、喜びも束の間その師もまた無実の罪をきせられて死んでゆく。
そしてまたチャングムは師からも、汚名を晴らして欲しいと遺言を託されてしまうのです。
硫黄鴨事件の冤罪で済州島送りになりながらも逆境に負けず、復讐(恨)を決意するチャングム。
そんな矢先済州島で高名なチャンドック医女と出会い、医女としての宮廷復帰の可能性を聞かされ、厳しい修行の後、国家試験に合格し宮廷に再び入りました。
母や師をおとしいれたチェ一族はそんな必死のチャングムが怖くてたまらないのです。
なんとかチャングムを葬りさりたいと思いながら、チャングムの必死の生き方に心うたれる多くの人間に守られながら無事に母親と師の仇うちができるのです。
そこから初めて、チャングム自身の本来の人生が始まるのです。
そのチャングムの生き方はまるで被虐体験者の私の生き方とだぶりました。
親や師の仇を討つための努力が、同僚や先輩たちから、うとましく思われ嫉妬されて、いじめられてしまいます。
そこにはチャングムの目的達成の為には手段を選ばないやり方が、こつこつやってきた人間から見ると、自分の築き上げてきた立場や地位を脅かされるのではという気持ちがあるのでしょう。
ですが、チャングムは敵討ちの為、自分の出来る事を200%努力しているだけなのですがそれは、彼女自身が他人の人生を背負って生きているからできることでもあるのです。
そしてチャングムの「もうこれ以上は限界で耐えられない」とチャングム自ら仇を陥れて勝利するところなんて凄く気持ちがいいです。
そして仇だったチェ一族のチェ・ソングム提調尚宮(宮廷女官長)が死ぬシーンでは、最後はやはり一族の人間として一族を背負わされて今までどれだけ苦しんだ生きてきたか?を告白します。
しかし、チャングムは何度も何度も彼女に改心させるきっかけを与えたにも関わらず、チェ・ソングムは繰り返しチャングムやその仲間に攻撃を加えます。
チェ・ソングムは昔彼女が一族の画策した陰謀を偶然知ったチャングムの母に対して行った事を、チャングムが娘だとは知らずに同じ事を繰り返していたのです。
しかし、チャングムがかつての自分の親友でもあり、殺した相手でもある人物の娘だと気づいたとき、チェ・ソングムの心にわきあがったのは後悔や反省、謝罪の気持ちではなく、やり返されるという恐怖のみが支配していたのです。
そこで、私はこのチェ一族が私自身の両親や兄に重なりました。
彼らも私や他の人に対してしてきた事を誰かに咎められたことはきっと無いと思います。
自分たちの気づかないところで、未だに多くの人を傷つけ、苦しめているのではないでしょうか?
そのような行動をする人間というのは脳のどこかに人に対する虐めや虐待を何とも思わないような回路が出来上がっているのでしょう。
逆に良い行いをする人も正義の回路が出来ているように私は考えています。
結果的にチェ・ソングムには天罰が下されて、良い死に方は出来なかったのです。
なぜか、私はこのチェ・ソングムの事が哀れに思い、ここで私は泣きました。
どんな親であれ、子供として産んでもらった感謝の気持ちを思えば、私の肉親のしてきた事は間違っていると分からせる事が、真の愛情ではないかと、このドラマを観て、強く思いました。
その行為を間違っていると非難する人間は、自分自身他人から仕返しをされるような事をしてきている都合の悪い人間か、本当の愛情を知らない人だと思います。
「人間とは悲しい生き物だな」とつくづく感じた瞬間でした。
ですが、やはり苦しんだ人間は行くところまで行って、チャングムのように自分の命をかけた仕返しが必要なのです。
「憎しみは忘れられないからです」
今現在苦しんでいる人には是非見て欲しい物語です。
最後はハッピーエンドで終わる事が、私には嬉しいことでした。
夫と子供との幸せを考えながらも宮廷での平穏な生活を手に入れたのにそれを捨てて、多くの苦しんでいる民の為に民間人の医女の人生をまっとうしてゆくのです。
チャングムは宮廷を捨てた事により、初めて自分自身の人生を歩み始めたのです。
波乱万丈の人生を送ってきた人、被虐体験のある人が、世のため人の為に尽くしていく姿は、自分だけではないんだというのが、全編観終えての感想です。
皆さんに是非見て欲しい物語です。
宮廷女官 チャングムの誓い 公式ホームページはこちら
岡田ユキ